Poesy In My Pocket #4 宮崎信恵
2024.05.22・緑地に出かけた時にたんぽぽがたくさん生えていた。綿毛が飛ぶ様子を見て、息子が「はるのゆき」だと言った。
・雨の日の朝、前の前の車が大量の白い排気ガスを吐き出して、こちらまで漂ってくるのかと思ったら前方で呆気なく消えた。後ろにいた大きな車が信号待ちの渋滞に痺れを切らしたのか、素早く反対車線を逆走して、少し先の小道に入っていった。
しばらく待つと何もなかったみたいに渋滞の列が進んだ。カーステレオのラジオからはゴジラのテーマ曲が流れる。
・インターホンが鳴って玄関のドアを開けると、学校から帰ってきた娘が目を閉じ、手を合わせて祈っていた。鍵を忘れたらしい。
・夕方、車で歯医者に向かう。西陽で照らされたバスを待つ人たち。みんな気怠さが漂っている。かと思えば中学生くらいの男子の集団が凄い勢いで駆けていった。
・歯を磨く。フロスを通す。腕に水が垂れて服の袖との間を伝っていく。
・今朝もラジオでアナウンサーが独自の風景描写と気候を伝えている。ビジネス英会話ではリサがオーガニックワインを販売し続けている。
・眠った子を抱いて歩いていたら、米を抱いた人とすれ違った。
・車いっぱいに充満する桃の匂い、パンの焼ける匂い、お下がりの子供服の柔軟剤の匂い、ハイターの匂い。嗅覚が鈍くなっていてよくわからない匂い。
・ラジオのクラシック公演の番組の最中、緊急速報で大雨情報が入る。その後番組に戻り、演奏終了後の拍手が流れた。
一瞬、雨の音なのかと思った。
私のポケットの中のポエジー。毎日のいろんな瞬間が詩的だなと思う。どれもささやかな出来事で、忘れてしまわないように書き留めておく。忘れてしまってもいいようなことばかりだけど。
六年前、絵本を出版した時にインタビューを受ける機会があった。この絵本は詩のようだと言われたりすることも多いのだが、同席してくれていた出版元のKさんが「最近、詩は静謐さばかりが取り沙汰されているけど、ポエジーっていうのはポケットの中のしわくちゃのレシートの裏にこそある」というような内容の話をしていた。どういう流れでこういう話になったのかはよく覚えていないけど、自分の作ったものが何でもない紙切れの裏に書かれたものと似たところにあると思ってくれているのがとても嬉しかったのを覚えている。自分が大事にしてきたことをちゃんと見てくれている人が身近にいるというのはありがたいことだなと思う。
コラムのタイトルをその時の言葉から拝借したことをここに記しておきます。